あなたは、認知症になった自分の姿を、人に見られたくないと言ってましたね。
認知症になって、以前は当たり前にできたことができなくなって、頼りない姿に見えたり、情けない姿に見えたり、哀れな姿に見えることが、どうしても受け入れられない、許せないと。他人はおろか自分の家族にさえも見せたくない、もちろん息子や娘にも見せたくないと言ってましたね。これからは、どこかに隠れて暮らしたいとまで言ってました。
まわりの人をがっかりさせたくないですね。昔のあなたは誰からも頼りにされていましたから、今の姿はそれとは違って見えるかもしれません。
でもね、あなたを真に理解し、あなたの思いやりや気遣いなどの人間性を見てきた人は、あなたは変わっていないと見ると思いますよ。あなたのうわべだけを見ていた人にとっては変わったと見えるかもしれませんが、本当に理解していた人にとって何も変わっていないと思うのです。
あなたの本質は変わっていないじゃないですか。
今までできていたことができなくなって悲しいのは、あなたの心は今までと同じで何も変わっていないからですよ。だから、前にできていたことが、できなくなったと感じて悲しいのですよ。
でも、あなたの優しさも、正直さも、誠実さも、几帳面さも変わっていないじゃないですか。少しくらい、ズボラになったり、いい加減になったりしたら楽になれるのになあ、と私が思うくらいに、変わっていないんですよ。あなたの、きれいなものに感動するところも、人の役に立ちたいという気持ちも、これからもずっと変わらないです。
だから、あなたの本質を知る人は何も変わっていないと断言するんですよ。
繁田雅弘
東京慈恵会医科大学 精神医学講座 教授
東京慈恵会医科大学附属病院の精神神経科では初診や物忘れ外来(メモリークリニック)を担当。また、後進育成、地域医療への貢献にも積極的に取り組む。東京都認知症対策推進会議など都の認知症関連事業や、専門医やかかりつけ医の認知症診療の講習や研修なども行っている。日本認知症ケア学会理事長。