認知症診療の第一人者である東京慈恵会医科大学教授 繁田雅弘医師が、認知症と診断されたあなたに伝えたい言葉。

24 病気をしていなかったら

24 病気をしていなかったら

そりゃあ認知症にならないほうがいいと思うんです。
認知症にならない場合と認知症になった場合を比べれば、ならないほうがいいに決まってます。そのほうが選択肢が多いでしょうし、自由度が高いですから。だから認知症になった場合とならない場合をどちらが全体としていいか比べる話ではないんです。この点あらかじめ確認させてください。

それから、僕は自分が認知症の心配をしていますが、まだ認知症になっていないから、認知症になった場合の本当の気持ちは分からない。共感しようと努力はしてきたけれど、認知症を経験していないという限界があります。だけど反対に、認知症になっていないから、認知症のあなたより、冷静に客観的に理解できる部分があるかもしれない。そう思って伝えたいことがあるんです。

認知症の種類によって異なる体の症状が出ます。立ちくらみをしたり、食事中にむせたり、便秘をしたり、めまいがしたりします。つらいと思います。そうした症状は医療の治療の対象になります。

精神的な症状が出ることもあります。不安や気分の落ち込みや、イライラなど。そうした症状も、原因を調べて人間関係や環境調整を試みます。社会福祉士や精神保健福祉士や看護師などが特に頼りになります。本意ではないけれど本人が了承してくれるなら向精神薬を用いた薬物療法を行うこともあります。

経済的問題についても上記のように多職種で力を出し合うことが必須です。

それから、治らない中での暮らしへの支援ということは、その人が何をしたいのか、どういう生活を続けたいのかということが重要になる。

ただ人は、何をしたいのか、どう暮らしたいかなどと突然訊かれても、答えられるものではない。一緒に考えないといけない。そして考えているうちに、本当は何をしたいのか、どう生きることが幸せなのか、心の中の何を守りたいのか、ということも考えるようになるんです。

そこまで考えている人をみるとき、それは病気をしていなかったら考えなかったことではないかと僕は気付いたんです。

自分と向き合うとき、自分の心の中をみるとき、本当に大切なものに向き合えるようになると気付いたんです。

それは病気でなかったら到達できなかったような質の高い人生のようにも思うんです。

普段私たちが忘れている、人間の本質にかかわる高貴なことで、多くの人はそれに気付くことなく一生を終えているように思うのです。 

繁田雅弘
東京慈恵会医科大学 精神医学講座 教授
東京慈恵会医科大学附属病院の精神神経科では初診や物忘れ外来(メモリークリニック)を担当。また、後進育成、地域医療への貢献にも積極的に取り組む。東京都認知症対策推進会議など都の認知症関連事業や、専門医やかかりつけ医の認知症診療の講習や研修なども行っている。日本認知症ケア学会理事長。


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