「暇だから」と始めた散歩も、今年で7年目
近藤英男さんと田中哲夫さんは、小学校からの幼なじみ。仕事の都合で30年くらいは離れて住むことになったけれど、二人が58歳の時、田中さんが逗子へ戻り、再会することに。
若年性認知症であるという診断を近藤さんが受けたのが、57歳のとき。その年の、近藤さんから田中さんへの年賀状には、近藤さんの文字で「忘却力が強くなりました」とあったそうです。近藤さんの様子を友人から聞いていた田中さんは、これを見て、心配するというよりも「近藤らしいな」と、少しホッとしたような気持ちになったといいます。
逗子に帰ってきた田中さん。「仕事を辞めて暇になったら、近藤も暇だという。お金のかからない遊びをしよう、といって考えていたら、お互いにもともと散歩好きで、体を動かすことが好きで……それなら散歩に行こうか、ということになった」。
散歩のテーマは「面白いことを探すこと」(近藤さん)「運動不足の解消」(田中さん)
田中さんいわく「近藤は冒険好き」。学生時代、東京から新潟までリヤカーで旅をしたこともあるそうです。そんな近藤さんと一緒の散歩は、「冒険になるのでは」という田中さんの予想を裏切ることなく、週に1度の散歩はスリリングで楽しい時間となっているようです。
「今日は海に出て、披露山に登るか」。コーヒーを飲み終わり、二人は動き始めました。
逗子海岸へ
披露山へ
披露山公園で休憩
小坪へ降りる
途中で知り合いのところに寄ってみた
逗子駅でお昼ごはんを食べて、解散。また来週!
取材後記
約2時間の散歩でした。何かを見つけては止まって眺めたり、歩くコースも途中で変わっていったり……無邪気に笑ったり話したりしている様子に「楽しそう」と声をかけると「二人でいると、中学生や高校生のレベルになってしまうんですよ」と、田中さん。「楽しいほうがいいよね。いつも楽しいほうに行きたいんですよ」と近藤さん。
山登りの速度はやや早めで、ついていくのがやっとでした。「健脚!」というと近藤さんは「いつもこれくらいの速度ですよ。1週間休むと、登るのが辛くなる。だから続けて散歩するのは、とてもいいことだと思っているんです」。
「いつも近藤のことを、僕は羨ましいと思っている」という田中さんは、「認知症になっても、近藤は変わらない」と言います。「そぎ落とされた部分はあるけれど、子供のころからもっている、近藤の芯にある、楽しいことへの好奇心であったり、人への優しさだったり……僕が羨ましいなと思う部分は変わらない、というよりも、より目立ってきているんじゃないかな。だから、小さいころからずっと僕は近藤に頼っているし、今でも羨ましいなって思っているんですよ」。
写真/嘉山 仁(SHIGETAハウスプロジェクト スタッフ)