認知症と診断されたあなたへ

9 思い切ってあやまる

あなたはお孫さんのことが大好きだったんですよね。お孫さんもあなたを慕ってるってご家族も言ってました。イタズラもするけど、お孫さん可愛くていらっしゃいますものね。でもそのときは、お孫さんも調子に乗ってしまったんですね。あなたも、いつもなら笑ってすませたのに、なぜか手を上げてしまった。すごく後悔してますよね。お孫さんにも申し訳ないと思ってるんですね。

息子さんと話したら「親父は認知症だから怒ったことも覚えていないだろう」って言ってました。私は「そんなことないですよ」「本人が一番後悔しているはずです」と言いました。でも息子さんは「きっと今の親父は思い出してもなんとも思わないだろう」って言ってました。「そんなことないですよ」って何度か言ったら、息子さん、何か考えているようでした。もしかしたら、あなたのことを分かろうとしているかもしれません。

奥様は「とてもびっくりした」と言ってました。「あんなこと今まで一度もなかったから」と。「認知症が進んでしまったのかしら」「たしかにもの忘れはずいぶんひどいけど、まさか孫に手をあげるなんて考えもしなかった」って言ってました。でも奥様はわかっていらっしゃって「そこまで自分を追い込んでしまったんですね」とも言っていました。「自分でも、どうしようもなかったんでしょうね」「自分で自分を責めているでしょう」って言ってました。そして「自分はわかってあげられなかった」とも言ってました。

思い切ってあやまりませんか? お孫さんにだけでも。
後悔してるんですよね、手を上げたこと。だったら、後悔していることだけでもお孫さんに伝えませんか? 小学校1年生だってちゃんとわかりますよ。いろいろと気が利く賢いお孫さんなんでしょ? あやまるだけでも、あやまっておきませんか? あやまっておくことは自分自身のためにも大きな意味があると思いますよ。大好きなお孫さんをがっかりさせたままにするのは、よくないと思います。だって、お孫さんはあなたを“認知症の人”として見ない唯一の理解者なのですから。

繁田雅弘
東京慈恵会医科大学 精神医学講座 教授
東京慈恵会医科大学附属病院の精神神経科では初診や物忘れ外来(メモリークリニック)を担当。また、後進育成、地域医療への貢献にも積極的に取り組む。東京都認知症対策推進会議など都の認知症関連事業や、専門医やかかりつけ医の認知症診療の講習や研修なども行っている。日本認知症ケア学会理事長。