認知症と診断されたあなたへ

17 それぞれの暮らし方

Aさんへ。

家族と一緒に暮らすことができて、よかったじゃないですか。体調が悪いときは病院についていってもらうこともできますし。わからないことをすぐに確認することもできますし。家に誰かいるというのは、安心感がありますね。

そりゃあ口喧嘩をすることもあるでしょうし、気を使うこともあるでしょうけど、やっぱり何かと安心ですよ。ただ、できるだけ認知症になる前と同じような関係でいることが大切ではないかと思います。

ついつい頼りたい気持ちになるかもしれませんが、できれば抑えたほうがいいでしょう。家族も認知症だからと心配してそばにいることが増えるかもしれませんが、距離を取ったほうがいいでしょう。

今までに長い時間をかけて自然に出来上がった心の距離感というものは、できるだけ変えないようにするほうがいいでしょうね。

Bさんへ。

一人暮らしでよかったじゃないですか。家の中で気を使わなくていいですし、叱られたりすることもないでし。

認知症っていうのは不思議な病気です。病気になってから、めずらしく注意されることが増える病気なんです。

普通は、具合を心配してもらったり、家族に大事にしてもらえるのですが、認知症は違うんです。ぼーっとしていてはいけないとか、運動したほうがいいとか、頭を使ったほうがいいとか言われてしまうんです。それがストレスになって、イライラしたり、怒りっぽくなったり、気分が沈んだり、なかには自殺した人もいます。その人は家族の期待に応えられないことが苦になったのかもしれません。
家族を理由に自分から施設に入ることを希望する人もいます。

だから、一人でよかったですね。そんな心配がありませんから。

あなたは家族からのストレスを想像することもないでしょう。それが当たり前になっているので。むしろ一人が心細く、不安を感じることがあるかもしれませんが、一人はいいことなんです。ただ、できるだけ介護保険のサービスを利用したり、普段から友達や近所の人とつながっていてくださいね。

繁田雅弘
東京慈恵会医科大学 精神医学講座 教授
東京慈恵会医科大学附属病院の精神神経科では初診や物忘れ外来(メモリークリニック)を担当。また、後進育成、地域医療への貢献にも積極的に取り組む。東京都認知症対策推進会議など都の認知症関連事業や、専門医やかかりつけ医の認知症診療の講習や研修なども行っている。日本認知症ケア学会理事長。

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