認知症をもつ人たちが、認知症をもつ人に会いに行きました。一人の人に会いに行ったり、認知症をもつ人が集まっている場所に行ってみたり……。
そして、いろんなことを教えてもらいました。
皆さんも、このサイト上で、または今回ご紹介する「集う場所」に出かけて、認知症をもつ人に会ってみませんか?

自分の中で不安や 話したいことがあるときに 行きたいところ 話せるところがあるのがいい

自分の中で不安や 話したいことがあるときに 行きたいところ 話せるところがあるのがいい

〜 magazineエイトVol.2 特集記事 〜 
*magazineエイトVol.2 からの発信です

若年性認知症の人たちや家族同士が気軽にお話しできる場を作っている平井正明さんは、自身も若年性認知症です。平井さんの活動の様子を知りたくて、ある木曜日、同じく若年性認知症の当事者である下坂厚さん が平井さんに同行して撮影し、編集部とともに取材しました。

撮影:下坂 厚さん

平井正明さん
 1961年生まれ。奈良県在住。56歳のとき、歳のとき、MCIもしくはアルツハイマー型認知症の初期との診断を機に退職。2018年一般社団法人「SPSラボ若年認知症サポートセンターきずなや』で活動開始、当事者自ら活動する団体「まほろば倶楽部」を設立。2020年より奈良県委託事業「奈良県若年性認知症サポートセンター」のピアサポート活動に従事。

今日は、平井さんが活動を行っている
『きずなや』に向 かいます。

木曜日は、若年性認知症の本人と家族が集ま る日(ピアサポートの日)なのです。自宅から電車、バス、 車を使って『きずなや』に向かいます。「IC カードを使っ ているので、切符の値段や買い方などを考えたりするこ となく、乗車できて便利です」(平井さん) 

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ヘルプマークとオレンジリングは、お守りとして、いつもバッグにつけています。「稀ですが席を譲ってくださることもあります」(平井さん)

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一度、近鉄郡山駅で下車。ここからバスに乗りますが、その前に、今日の昼食を駅近くのお店で購入します。「買い物のときの支払いは、現金しか使えないところ以外は、すべて電子マネーか IC カードを使っています。スマホには、障害者手帳が表示でき る「ミライロ I D」のアプリも入れています。 飲食店やレジャー施設などで使えるお得な 電子クーポンも、このアプリで手に入れることができます」(平井さん)

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いつもの時間のバスに乗り、若草台バス停で下車。バス停には『きず なや』から迎えの車が来てくれます。 その車に乗り、『きずなや』へ。

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『きずなや』に到着

『きずなや』に到着。高台にたつ一軒家に『きずなや』の事務 所があります。窓や庭から遠くの山や街が見えます。
『きずなや』の正式名称は『一般社団法人 SPS ラボ若年認知症サポートセンターきずなや』です。2009年、地域で孤立する若年性認知症の人と家族にとっての居場所や活動拠点を作る目的でスタートし、2014 年一般社団法人化。現在、奈良県若年性認知症サポートセンター事業を受託しています。若年性認知症支援コーディネーターも在籍し、若年性認知症の本人やその家族、企業の労務担当者が直面する悩みや不安に対して、さまざまな人たちと連携しながらサポートしています。 平井さんは、『きずなや』の非常勤職員として、さまざまな活 動を行っています。

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事務所から少し歩くと、ゆるやかな谷間の斜 面に約 600 本の梅の木が植えられている「追分梅林」があります。土壌の悪化から、ほとんど枯れてしまった梅。追分梅林組合の理事長から経緯を聞き、『きずなや』では、2014 年 から若年性認知症の人や家族、支援者らとともに梅のお手入れの手伝いと、約 500 本の苗 木を植える作業を始めました。再び、梅の実 がつくようになってきています。

『きずなや』の事務所のすぐ下 には、畑があります。
「今後、 認知症がある人たちと一緒にここで作物を育てて、それを販売することができるといいな と思っています」( 平井さん )。
畑の隣はキャンプ場です。

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『きずなや』の事務所にある12 畳ほどの部屋が、今日の活動の場になります。部屋にはレコードが置いてあったり、パソコンとつなげられるテレビがあったりします。
隣の部屋はキッチンがついていて、以前は参加者と一緒に料理を楽しむこともありましたが、今はお休みしています。

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3〜4名のスタッフと一緒に椅子や机を配置します。
「人によっては移動しやすい場所がよいとか、レコード が見える席がよいなどがあったり、参加人数に合わせ て話しやすい席の配置があったりするので、それを考えながら準備します。おやつは、みんなが喜びそうなものを、ほかのスタッフが用意してくれました」(平井さん)。
13 時ごろから人が集まってくるので、その前にお昼ご飯を食べます。

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若年性認知症の本 人と家族が集まる(ピアサポート)

13 時から 15 時までの2時間が、若年性認知症の本 人と家族が集まる時間(ピアサポートの日)です。
それぞれ、好きなことをして過ごします。話をするのが好きな人、歌が好きな人、歌いたい人、踊りた い人など、さまざまです。歌を歌うときは、リクエ ストに応じて、パソコンでカラオケ用の曲を流します。
「参加者のお一人は、会話が難しくなってきていますが、スマホを使って検索をすることはできる ので、スマホを使って聴きたい曲や自身の思いを人 に伝えることができます。『こういうことをしてほ しいんだな』というその人の思いも、定期的にお会いしているからこそ、わかってくるのだと思います」 (平井さん)

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ピアサポートの活動が終わったら、若年性認知症 支援コーディネーターの尾崎京子さんや若野達也 さんたちと一緒に話をします。主にこの一週間で 届いた相談案件や、行われている支援の経過など についての話になります。
その後、車、バス、電 車を使って帰宅したのち、自転車で近くのスポー ツクラブへ。

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スポーツクラブでトレーニング

機能改善エクササイズ(約40分)を行い、4〜5 種類のマシンを使ったトレーニングと、スタジオ レッスン(ZUMBA・約40 分)を行います。
「スポー ツクラブには週4回ほど通っています。筋トレは 好きで、30 代のころから週1回くらいはスポーツクラブでマシントレーニングをしていました。認知症と診断され、自ら退職してから本格的に始めました。とにかく、終わったあとは気持ちがいいんです。出かける機会にもなるし、同じからだを 動かすなら、筋肉量を維持するためのトレーニン グがいいかなと思って、続けています。終了後は 自転車で帰宅。夕ご飯を食べて、お風呂に入って、 12 時前にはベッドに入ります」(平井さん)

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平井さんが語る!
若野達也さんとの出会い

2018 年、奈良で開かれた丹野智文さん と若野達也さん(『きずなや』の代表) の講演会「若年性認知症フォーラム」 の動画を見て、すぐに若野さんに電話 をしました。そして、『きずなや』を訪 ねとき、「ここで活動をしたい」と思い ました。

若野達也さん
精神保健福祉士。2004年に奈良市に認知症グ ループホーム「古都の家学園前」を設立。2009 年から若年性認知症の人の就労支援や相談業務に取り組み、2014 年『一般社団法人 SPS ラボ若年認知症サポートセンターきずなや』を設立。全国若年認知症家族会・支援者連絡協議会代表代行。認知症フレンドシップクラブ理事などを務める。

下坂厚さんが語る 
平井さんに同行して感じたこと

写真左から、下坂厚さん、平井正明さん

「なによりも、参加されている皆さんも、 平井さんもとても楽しそうという印象 でした。そして、『何かしなくてはいけ ないというわけではなくて、やりたい ことをやる』という場であることが一 番いいなと思いました。
僕も京都で当事者や家族と交流してい ますが、その場が『やりたいことがで きる。行きたいときに行けて、帰りた いときに帰れる』という自由さをもっ ていることが大切だと思っています。 平井さんの集いの場もそういった自由 さを感じました。
そして、高台にある一軒家という環境 はとても魅力でした。集いの場は会議 室だけでなく、街のカフェや公園、キャ ンパスなどでも作っていけると、当事 者にとって「行きたい」と思える場が 増えるかもしれないですね」

下坂厚さん
 1973年生まれ。京都府在住。長年、鮮魚店に勤め、2019年の夏に若年性アルツハイマー型認知症の診断を受けて退職。その後、認知症初期集中支援チームとのつながりから介護職でのアルバイトを始め、後に正職員として採用される。ケアワーカーとしてデイサービスで働きながら、講演やピアサポートなどの社会活動を通して認知症の啓発活動にも力を入れている。

協力:一般社団法人 SPS ラボ若年認知症サポートセンターきずなや https://kizunaya-nara.org 多田美佳(はるそら https://haru-sora.net)、 まほろば健康パーク https://swimpia.com 表紙・特集イラスト:Ta ro.


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