認知症と診断されたあなたへ

2 はじめて受診したときのこと

繁田雅弘

先日、私の診察に来てくれた人は、ほかの病院ではじめて受診したとき、知らない間にテストが始まっていて、気づいたときには慌てたそうです。「朝、新聞の日付を確認しておいたらよかったな」と思ったそうです。

今日は何月何日かって聞かれたから、何でそんなこと聞くんだろうって思ったそうです。テストが始まったことを知って、びっくりして。びっくりしたら、何を答えたらいいのかわからなくなって、頭が真っ白になったそうです。

「終わったあとに、先生はよくできていましたよって言ってくれたけど、みんなにそう言うんだろうな」って思ったそうです。

「あんな簡単な問題ができないのに、よくできたなんてはずはないよね。あれでよくできていると言うなら、よっぽど自分はできないと思われていたんだな。先生は驚かなかったから、やっぱり私は認知症だと思われているんだな」と思ったそうです。

検査をしたのはすごく優しい女性の先生で、その分、自分が哀れに思えたんですって。

「あれができていたら診断が違っていたかもしれないと思うんです。もう一回やってくれないかな。そしたら認知症って言われなくてすむかもしれない」。
「最近は忘れっぽくなったけど、このことは絶対忘れないと思う。ショックだったし、自分がほんとうに情けなかったから」と言っていました。

繁田雅弘
東京慈恵会医科大学 精神医学講座 教授
東京慈恵会医科大学附属病院の精神神経科では初診や物忘れ外来(メモリークリニック)を担当。また、後進育成、地域医療への貢献にも積極的に取り組む。東京都認知症対策推進会議など都の認知症関連事業や、専門医やかかりつけ医の認知症診療の講習や研修なども行っている。日本認知症ケア学会理事長。

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