認知症と診断されたあなたへ

5 自分の思いと家族の思い

繁田雅弘

受診するまでには、家族との間にいろいろあったのではないですか?

「認知症かもしれない」ということは、はじめに自分で気付いたんですよね。それまで普通にできていたことに時間がかかるようになったり、失敗したりすることが増えたと思うので、認知症というところまでは考えなかったとしても、「なんとなくおかしいな」と思っていたのではないですか。

家族に言われる前に医療機関を受診する人も、最近は結構いるんですよ。でもすぐに病院なんていけないでしょ。それで躊躇(ちゅうちょ)している間に、家族がおかしいなって気付いて、家族から受診をすすめられる人もいます。

家族としては、放っておくとどんどん悪くなってしまうような気がして、病院に行ったらどれだけのことができるかもわからないけど「とにかく行かせなくては」と思うようです。「少しでも進行が抑えられればいいな」って考える人もいます。

でも、受診をすすめられるほうは、大きなストレスになると思いますよ。「病気が始まっているに違いない」「このまま放っておいたら大変なことになる」などと、“ボケ扱い”に近い状態だったかもしれない。病院に行くことを、顔を見るたびに言われ続けて、食事のときも家族団らんのときも気が休まることはなかったのかもしれない。

でも、家族は心配で心配でたまらなかったのだと思いますよ。病院に連れていくこと以外に、家族にはできることがないようにも思えたでしょうね。本人の顔を見れば病院に行く話ばかりになっていたと思います。

繁田雅弘
東京慈恵会医科大学 精神医学講座 教授
東京慈恵会医科大学附属病院の精神神経科では初診や物忘れ外来(メモリークリニック)を担当。また、後進育成、地域医療への貢献にも積極的に取り組む。東京都認知症対策推進会議など都の認知症関連事業や、専門医やかかりつけ医の認知症診療の講習や研修なども行っている。日本認知症ケア学会理事長。

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