認知症と診断されたあなたへ

19 忘れたことに気づく、気づかない

もの忘れをするようになったと自分でも感じていたのですね。

家族も気がついていたようですが、あなた自身も気づいていたんですね。自分では認めたくなかったでしょう。しかし冷静になって、自分に正直になれば、もの忘れは増えているとわかったのですね。

自分の能力の変化に敏感な人と、そうでない人がいるかもしれません。敏感な人は、ちょっとした失敗に傷ついたり、心配になるかもしれません。一方で、もの忘れや失敗があっても、「年のせいだろう」「くよくよ悩んでも仕方ない」と考えるかもしれません。

家族は、うすうす感じていても、なかなか言い出せなかったと思いますよ。あなたを傷つけたくなかったから。  

「記憶力が衰えているのに、なぜもの忘れが増えたことを“覚えている”のか」と、訊かれたことがあります。

認知症であっても覚えられないわけでなく、覚えにくくなっているだけ、覚えるのに時間がかかるようになっているだけと思われます。ですから、もの忘れで周囲へ迷惑をかけてしまったり、恥ずかしい思いをしたりすると、強い感情を伴うので、記憶にも残るのだろうと思います。したがって、忘れたことを忘れていることもきっと多いと思われます。もちろん、忘れたことに気づかないことも少なくないと思います。でも、それでよいのではないでしょうか。

忘れたことの全部に気づいて、全部を苦にするのは、あまりにつらいことです。自信も失いますし、気持ちも落ち込んで、立ち直れなくなる可能性もあります。 

繁田雅弘
東京慈恵会医科大学 精神医学講座 教授
東京慈恵会医科大学附属病院の精神神経科では初診や物忘れ外来(メモリークリニック)を担当。また、後進育成、地域医療への貢献にも積極的に取り組む。東京都認知症対策推進会議など都の認知症関連事業や、専門医やかかりつけ医の認知症診療の講習や研修なども行っている。日本認知症ケア学会理事長。