20「幻覚を見る」ということ

レビー小体型認知症と診断されたんですね。その病気のことはご存知でしたか。

あなたが認知症と診断される前に、何年にもわたって、うつ病の治療を受けていたこともこの病気の特徴なんです。それから、「家の中に知らない人がいる」、「ベッドの周りに人がいて自分を見つめていた」、「家の中に入ってきて、あちこち調べていった」とかいう幻視が不気味で嫌だとおっしゃってましたね。それもこの病気の特徴的な症状なんです。
でも「幻視」とおっしゃったっていうことは、本当の人や動物とちがって“まぼろし”だと分かるんですね。どうやって本物とまぼろしを区別つけたんですか。
ある人は、自分の飼い猫がいると思って抱き上げようとしたら、自分の手が愛猫の体を通り過ぎたと言っていました(三橋昭さん)。別のある人は、子どもの頭を撫でようとしたり、声を掛けたら、姿が消えてしまったという人もいました。手を叩いただけで消えてしまったという人もいました。多くの人は、自分は見えるのに、家族が誰も見えていないことを知って、幻覚なんだと自覚したって言いますね。

こんな経験をすると、自分は頭がおかしくなった、正気でなくなったと、不安になるのではないかと思うのです。あなたが、そんなふうに心配してなければいいと思うんですが、この症状は、言ってみれば、寝ているときに見ていた夢が、間違って昼間に出てきちゃったようなものなんです。夢は誰でもみる自然なことでしょ。ふつうは寝ている間にしか出ないんですが、人によっては間違って起きているときに出てしまうことがある。その程度のことなんです。

だから頭がおかしくなったわけではなく、正気でなくなったわけでもないです。そのことだけはちゃんと覚えておいてくださいね。自分のことが分からなくなったりすることも決してありませんからね。

繁田雅弘
東京慈恵会医科大学 精神医学講座 教授
東京慈恵会医科大学附属病院の精神神経科では初診や物忘れ外来(メモリークリニック)を担当。また、後進育成、地域医療への貢献にも積極的に取り組む。東京都認知症対策推進会議など都の認知症関連事業や、専門医やかかりつけ医の認知症診療の講習や研修なども行っている。日本認知症ケア学会理事長。