樋口直美さんから山田真由美さんへのお手紙

2022年9月、樋口直美さんは、山田真由美さんに会いたくて、愛知県名古屋市にある真由美さんのお住まいを訪ねました。樋口さんと山田さんは、6年前からのお知り合いです。久しぶりの再会! 胸躍る時間はあっという間に過ぎて、「真由美さん、私、お手紙書きますね」と樋口さんが語りかけて、別れました。
今までのお二人の思い出の写真とともに、樋口さんから山田さんへのお手紙をご紹介します。

樋口直美さん(写真左)
1962年生まれ。文筆家。50歳でレビー小体型認知症と診断された。さまざまな脳機能障害、幻覚などはあるが思考力は保たれ執筆を続ける。著書に『誤作動する脳』(医学書院)『私の脳で起こったこと』(ブックマン社・ちくま文庫。日本医学ジャーナリスト協会賞優秀賞受賞)『「できる」と「できない」の間の人』(晶文社)ほか。自身のサイトで認知症情報や動画などを公開している

山田 真由美さん(写真右)
1960年生まれ。51歳の時に若年性アルツハイマー型認知症と診断された。若年性認知症本人・家族交流会「あゆみの会」に参加 し、当事者同士の出会いの中で前向きな気持ちになる。その経験から 「認知症のことを知ってほしい」「当事者にもっと外に出てきてほし い」という思いで講演活動などを行っている。認知症当事者のための相談窓口『おれんじドア も~やっこなごや』代表。

山田真由美さんへ  

真由美さん

先日は、やっと会えて、本当にうれしかったです。会いたいなぁと思っても、コロナ感染者数の多い関東から行くことは気が引けて、ここ数年は、facebookで写真を見るだけでした。写真の真由美さんは、以前と同じ弾ける笑顔ですが、車いすに座っている姿は、気になっていました。

最近、要介護5と聞いて驚き、さらにお友達と名古屋から鳥取まで旅行した写真にびっくり! やっぱり真由美さんは、挑戦者ですね。楽しい旅行を満喫した後は、とても元気になったとお友達から聞きました。

真由美さんと初めて会ったのは、6年前の津市のD7という当事者の公開座談会でした。真由美さんが初めて人前で話した日でしたね。当事者7人の中で一番晴れやかな表情、ユーモアがありながら意志の強さを感じる語り口が印象的で、魅力的な人だなぁと思ったんです。

初めて山田真由美さんが登壇したD7の楽屋での写真。
D7は、アルツハイマー病とよりよく生きる7人の方が、自らの言葉で思いを語るという画期的な会です。三重県津市で2016年7月9日に開催。コメンテーターに笠間睦医師。私は、座長でした。詳しくは以下をご覧ください。D7は動画が公開されています。 https://www.youtube.com/watch?v=m36RncncPy4 RUN伴(ランとも)の活動紹介の後、34分40秒目からD7が始まります。

その後、講演活動をし、テレビにも何度も出ましたね。視空間認知障害が主症状の真由美さんは、鍵を鍵穴にさしたり、服の袖に手を通すのが難しいと、その様子を実際に見せていました。

できないことを人に見せるのは、ものすごく勇気のいることです。私は見せたくないと思ってしまいます。でも真由美さんは、堂々と見せて、「周囲の人に伝えて、手伝ってもらうと楽になるよ!」と力強く語っていました。

認知症の学会では、「字を書くのが難しい」と語り、「メモを取れないと大変でしょ?どうするの?」と私が質問すると「覚える!」と答えて、皆を驚かせました。私は、こと時間に関係することは、さっぱり覚えられないので、「覚える」なんて発想はなかったんです。

真由美さんは、ピアサポート(当事者が、同じ立場の人たちと話して元気づける活動)の「おれんじドア も〜やっこ なごや」も立ち上げ、たくさんの人を勇気づけてきました。真由美さんには、どんな人も笑顔に変える魔法のパワーがあるんです。

名古屋でのVR認知症の体験会(丹野智文さんも参加)  

熱海旅行(VR認知症制作の打ち合わせを兼ねて)

名古屋での認知症のイベント

久しぶりに会ったのに、すぐ私だとわかり、満面の笑みで迎えてくれましたね。すごくうれしかったです。でも、食べること、飲むこと、動くこと、日常のなんでもない動作ひとつひとつに大変な苦労があることを今回初めて知りました。それは、写真からは想像もできないことでした。

それでも真由美さんは真由美さんのままでした。「『おれんじドア』をやりたい!」とキッパリ言いましたね。やっぱりすごい人だと、私は、心底思いました。

いつか私が車いすユーザーになったら、私は、真由美さんをお手本にして生きていこうと思います。真由美さんは、唯一無二の人です。出会えて本当に良かった。

また会いに行きます!

樋口直美

公開日:2022年12月6日
お手紙と写真キャプション執筆:樋口直美
制作担当:早川景子 

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